まじめな琵琶名人!平経正-2【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】|平家物語青山

前回のつづきです。宴は遂に明け方まで続きました。右京大夫がさらりと詠んだ和歌に、平家の男性陣がとった行動は・・・

『建礼門院右京大夫集』<95~98番詞書>より
藤原隆房、平維盛、平経正

漫画は、原文を基にえこぶんこが脚色しています。

◆解説目次◆ ・経正さん・・・何て?
・竜神さえ現れる?!経正の琵琶
・弟のほうが有名?!平家を代表する音楽兄弟

経正さん・・・何て?!

ツッコミを入れられてしまった、経正の和歌を見てみましょう。

[98番]
 うれしくも 今宵の友の 数に入りて
 偲ばれ偲ぶ つまとなるべき

●現代語訳●
うれしいことに、わたしも今夜の仲間の数に入ったことによって、 後日思い出したり思い出されたりするきっかけとなることであろう



経正としては、
「ラッキーなことに、私もこの素晴らしい一夜の思い出の一員になれたよ」
という謙虚な気持ちで詠んだのに、

 「この素晴らしい一夜の思い出といえば、まず思い出すのはオレ(の琵琶)だよねー」
 という調子乗った意味でとられたということでしょうね。

 確かに、どっちの意味ともとれるな・・・。

からかわれているだけなのに、経正がムキになって抗弁したのが面白かった、と右京大夫には言われてしまっていますが。経正の真面目なキャラクターが伺われるエピソードです。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

そして、またまた苦手な和歌を無理やり詠まされる維盛さん。
 (いや、即興でこんなん詠めたら充分ですって。)

しかし、このメンツ・・・
藤原隆房も、平経正も、右京大夫も、私家集を持ち、勅撰集に入集するほどの和歌ウマなので、維盛としては詠みにくかっただろうなぁ・・・。

平経正と平敦盛と平維盛と平資盛『平家物語』


平経正の和歌は、えこぶんこ2でも紹介しています。
(別ウィンドウが開きます)

竜神さえ現れる!?経正の琵琶

今回のお話でも琵琶を弾いている経正ですが、彼の琵琶には、いくつもの神ってる(文字通り)伝説があります。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【伝説その1】経正の琵琶のすばらしさに、竜神が現れたというお話。

『平家物語』(巻七 竹生島詣)より
寿永二年四月、北陸の反乱を鎮圧する為、維盛・通盛・経正・忠度・知盛・清房らが大軍を率いて都を出ました。
大将軍の維盛・通盛が先に軍をすすめ、副将軍である経正以下は、近江国塩津、貝津にとどまっていました。

四月十八日のこと、経正は、琵琶湖の岸にでて、はるか沖にある島を見つけます。それが、名高い竹生島だということを知ると、侍数人を連れて小舟で島まで渡り、島にある都久夫須麻神社に参詣しました。
(※神社に祀られている竹生島大明神は弁財天の垂迹で、弁財天の象徴といえば琵琶です)

経正が経文を読誦していると、僧たちが、「あなた様は琵琶の名手であられると伺っています」といって、琵琶を弾いてくれるようにお願いしました

そこで、経正が上玄、石上という秘曲を奏でると、社殿にその音がすみわたり、そのすばらしさに竹生島明神が白い竜となって、経正の袖の上に現れました。経正は、そのありがたさに涙したということです。

(このエピソードは、「延慶本」「長門本」「四部合戦状本」等には見えないため、竹生島に伝わる伝承をもとに、後から『平家物語』に取り入れられたと考えられています。)

平経正の竹生島詣、琵琶と龍、平家物語

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【伝説その2】青山(せいざん)という国宝級の琵琶(いわくつき)を拝領していた話

平家物語 巻七(青山の沙汰)より

その昔、仁明天皇の御代の、嘉承三年(850年)。
遣唐使・藤原貞敏が、唐に渡り、琵琶の博士・廉承武から琵琶と秘曲を伝授されました。日本に持ち帰った琵琶(玄象・青山)は、朝廷の宝となりました

村上天皇治世の応和(961~964)の頃、
月の冴えた夜に天皇が玄象の琵琶を弾いていると、影のようなものが現れ、美しい歌をうたいだしました。
天皇が「お前は何者か」とお尋ねになると、影は、「私は、唐の琵琶の博士・廉承武と申すものです。この曲を君にお授け申し、成仏したいと思います」といい、立てかけてあった青山の琵琶を弾きはじめ、秘曲を天皇に授けました。
その後は、天皇も臣下の者も恐れて、誰もこの青山の琵琶をひくことはなく、仁和寺の御室に下されました

時代は下って、平安末期。
 平経正は幼少期、仁和寺の御室(当時は覚性法親王)に稚児として仕えていました。琵琶の才能を見込まれた経正が、覚性法親王からこの青山の琵琶をもらい受けたということです。

参照『平家物語』(新日本古典文学大系)岩波書店

国宝級の琵琶・青山をもらい受けていた経正ですが、平家都落ちのときに、この青山を仁和寺に返しに行きます
(このとき、既に覚性法親王は亡くなっていたので、青山を受け取ったのは、次代の守覚法親王です。)

 甲冑姿で現れた経正が、
「これほどの名器を田舎の塵にしてしまうのは残念ですので、お返しいたします。もし、思いがけなく都に帰ることがあったなら、そのときにまた、お預かりいたします」
 といい、人々が涙したのは、有名な『平家物語』の名場面です。




弟のほうが有名?!平家を代表する音楽兄弟

琵琶にまつわる逸話に事欠かない経正ですが、弟も笛の名手でした。
超超有名人・平敦盛(たいらのあつもり)です。


どのくらい有名かというと・・・
『平家物語』巻九「敦盛の最期」は、国語の教科書にも出てきます。
この話を題材にした幸若舞「敦盛」は、織田信長が好んで演じたといわれています。
あの「人間五十年、下天の内をくらぶれば・・・」です。

傍流で若いため、一ノ谷の戦い以外に特に目立った逸話もない敦盛ですが、最期があまりにも哀れだったため、めちゃくちゃ有名になりました

このとき、敦盛が腰にさしていたのは、小枝(さえだ)と呼ばれる笛でした。(青葉の笛とも)
祖父・忠盛が鳥羽院から賜り、父・経盛が相伝し、敦盛が笛の上手だったのでこれを与えられたといわれています。



兄弟そろって管弦の才能がずば抜けてあった経正と敦盛ですが、寿永三年、一の谷の戦いで最期を迎えます。




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※参考文献/久保田淳氏校注『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編日本古典文学全集、小学館 /糸賀きみ江氏校注『建礼門院右京大夫集全注釈』講談社学術文庫/梶原正昭氏・山下宏明氏校注 『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店



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