比叡坂本、雪の朝の思い出【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】資盛は少将だったのか

都を離れ旅に出た右京大夫は、比叡坂本へ。橘の木に降る雪を見て、思い出したのは・・・。

あらすじを漫画でどうぞ。
『建礼門院右京大夫集』<246歌詞書>より
建礼門院右京大夫集
建礼門院右京大夫集の平資盛
漫画は、原文を基にえこぶんこが脚色しています。

◆解説目次◆ ・登場人物
・いづくもかりの 宿ときこゆる
・資盛は近衛少将だったのか問題! 

登場人物

右京大夫(うきょうのだいぶ)
平徳子(建礼門院)に仕えていた女房。

平資盛(たいらのすけもり)
清盛の長男[重盛]の次男。右京大夫の恋人。

いづくもかりの 宿ときこゆる

右京大夫が向かった先は、比叡山の東麓、坂本。
逢坂の関を越えて、それほど隔たっているわけではないのに、雪が空を暗くし山おろしの風が吹く様子は、都とは別世界。雁の声が、いっそう寂しさをかき立てます。

246歌
憂きことは、所がらかと のがるれど いづくもかりの 宿ときこゆる
●現代語訳●
つらいのは場所のせいかと考えて都を逃れてきたけれど、この世はどこも仮の宿であるかというように、雁の声が聞こえてくる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

この宿で右京大夫は、橘の木につもる雪を見て、ある朝のことを思い出します。

それは、内裏に雪が積もった朝のこと。
資盛が、雪のついたままの橘の枝を持って佇んでいるところを見かけた右京大夫。
「なぜ橘の枝を持っていらっしゃるの?」と尋ねると、
「(右近権少将である)自分にゆかりがある木だから…」と答えた資盛。

雪の朝の美しい恋人の思い出です。
※このエピソードの詳細は、こちらの過去記事を参照ください。

結局、どこにいても、何を見ても、資盛を思い出す右京大夫なのでした。





資盛は近衛少将だったのか問題!

雪の朝、橘の枝を持って佇む美しい公達。
それは、恋人・少将平資盛。

作中でも屈指の名場面なんですが、この美しい世界に水を差す、ある議論が・・・

それは・・・
「資盛ってこの時、少将じゃないんじゃねえの?」問題。

以前の記事でも触れましたが、
●右京大夫が宮仕えを退いたのは、治承二年(1178)11月の言仁親王誕生以前のこと。
(126歌詞書より)

●一方、資盛が近衛権少将に任官されたのは、治承二年(1178)12月24日
(公卿補任)

ということは・・・、
右京大夫が宮中に勤務していたころ、資盛はまだ少将ではなかったことになります。

何が問題なの?って、
資盛が少将じゃなかったら、橘の枝を持ってる理由がなくなるからです。

近衛少将と橘の関係についてはこちらの記事を…(しつこい)

この矛盾をどう捉えたらいいんでしょう。
公卿補任の記載が違っているのか、それとも、右京大夫の妄想(…もとい創作)なのか。
タイムスリップでもして調べてみたいところですが…

それはさておき、248歌詞書は、
雪の朝の冴えた空気の中に、橘の爽やかな色と香りとともに、若い資盛の清らかな姿が目に浮かぶ、とても美しい章段です。

ここはひとまず、野暮なツッコミは置いておいて、この美しい追憶の世界を味わおうじゃありませんか。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



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※参考文献『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店/『平家物語必携』學燈社/『平家物語図典』小学館/高橋昌明氏『平家の群像」』岩波新書/角田文衛氏『平家後抄』朝日新聞社/『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編日本古典文学全集、小学館

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【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】
<プロローグ>
■建礼門院右京大夫集ってどんなお話? 1

<これが平家の公達だ!編>
■スーパーアイドル!平維盛 1
■唯一の弱点?!維盛の恋愛問題 1
■平家のムードメーカー!平重衡
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<資盛との恋~宮中編~>
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■雪のあした。資盛、突然の訪れ
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■右近の橘!雪の資盛

<宮中エピソード編>
■内裏近き火事。頼もしい平重盛
■後白河院最愛の美女!建春門院滋子登場
■本気で褒めたのに!高倉天皇の優しさ
■五節の櫛!平宗盛のプレゼント

<隆信との恋編>
■どういうつもり!藤原隆信の横恋慕 1
■右京大夫、宮仕えやめるってよ
■わたしは何なの?隆信の結婚
■恋は追う方が負け?

<平家滅亡編>
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■資盛との再会■枯れたる花
■寿永二年■倶利伽羅峠の惨敗!
■平家都落■資盛、最後の願い
■資盛と右京大夫、今生の別れ!
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■戦地の資盛の夢を見る
■梅の花と資盛■一の谷の合戦
■重衡の生け捕り■維盛の入水
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■壇ノ浦の戦い! ■壇ノ浦の戦後処理

<追憶の旅編>
■北山の思い出
■大原へ。建礼門院を訪ねて 1
■右京大夫、旅に出る
■比叡坂本、雪の朝の思い出
■波の底の資盛に■星合の空

<再出仕編>
■後鳥羽天皇に仕える
■宮中で資盛の名を聞く
■藤原隆房、藤原公経との贈答
■藤原俊成九十の賀に

<エピローグ>
■読み継がれる右京大夫集

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