平資盛の挑発?忘れていたのはどっち【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】|平家物語

気になる男性・平資盛から突然のプレゼント。そこに込められた意外なメッセージとは?
あらすじを漫画でどうぞ。

『建礼門院右京大夫集』<77番詞書>より

漫画は、原文を基にえこぶんこが脚色しています。

◆解説目次◆ ・登場人物
・忘れたい?忘れてほしくない?忘れ草バトル
・住吉も、住の江も「ええ」なー。

登場人物

平資盛(たいらの すけもり)
平清盛の長男(重盛)の次男。

右京大夫(うきょうのだいぶ)
中宮・徳子に仕える女房。

忘れたい?忘れてほしくない?忘れ草バトル


資盛が詠んだ歌。
〔77番〕
浦見ても かひしなければ 住の江に 生ふてふ草を 尋ねてぞみる

●現代語訳●
住之江の浦を見ても貝がないものですから、住の江に生えているという忘れ草を探してみました。
(=あなたのつれなさを恨んでみてもしかたないので、恋を忘れようと忘れ草を探してみました)


なかなか凝った技巧のオンパレードです。
■浦見てもかひしなければ
 「を探して見ても、が見つからなかったので」 と 「あなたをんでも、甲斐がないので」 の掛詞。

■住の江は、歌枕。

■草は、ここでは「忘れ草」(萱草)のこと。人を忘れる、という意味。
 忘れ草は、「恋忘れ草」とも言われ、恨み節に鉄板のアイテムです。

古今和歌集「道知らば 摘みにもゆかむ 住の江の 岸におふてふ 恋忘れ草」(紀貫之) の本歌取りです。


 資盛は、これを言うためにわざわざ貝と忘れ草(実物)を持参したのですから、なかなか手の込んだ演出ですよね。


それに対する右京大夫の返歌はこちら。

〔78番〕
住の江の 草をば人の 心にて 我ぞかひなき 身を恨みぬる

●現代語訳●
住の江の恋忘れ草というのは、あなたのお心のほうでしょう。あなたが私のことを忘れてしまったので、 私の方こそ、思っても甲斐がない我が身を恨んでおりました。


和歌が恨み節になるのは平安貴族の常套手段ですから、資盛は恨み言に寄せて恋しい気持ちを伝えたかったのだと思います。

それに対し、「我ぞかひなき」(私の方こそ)と言ってしまった右京大夫の返歌は、資盛の駆け引きに乗せられた感がありますね。


平重盛の住吉詣

資盛のお父さん、重盛が住吉に何しに行ったのかというと、住吉社への参詣でした。

住吉社は、大阪市南部にある、古代から続く神社です。
現在の住吉大社は海までそこそこ距離がありますが、当時は海岸線がもっと東側に迫っていて、すぐ目の前に海があったらしいです。

貝を拾うとか余裕でできたわけですね。

当時は白砂青松の美しい海岸線が続いていたそうで、「住の江」は、万葉集の頃から詠まれる代表的な歌枕です。

百人一首の
 住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路  人目よくらむ(藤原敏行朝臣)
が有名ですね。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ところで、右京大夫は、地の文では住吉(すみよし)と書いていて、和歌では住の江(すみのえ)と詠んでいますが、これは同じ場所のことを指します。

 住吉のは、古語で「」と発音したので、 古代には住吉と書いて「すみのえ」と読んだらしい。 それで、住の江とも書くようになったそうです。

住吉と住の江は、もともと同じ場所を指す地名だったんですね。
 (でも、現在の大阪市の住吉区と住之江区は、それぞれ別の地域です。)

ちなみに、大阪弁の「ええなー、それ」の「ええ」は、古語の吉(え)から来ているそうですよ。

参考:本渡章氏『絵とき摂津名所図絵』創元社
 



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※参考文献/久保田淳氏『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編日本古典文学全集、小学館/糸賀きみ江氏『建礼門院右京大夫集全注釈』講談社/梶原正昭氏・山下宏明氏『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店

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