大宰府を追われた平家と、平清経の入水【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】|平家物語

都を落ちた平家は、福原の旧都も棄て、九州へ。

あらすじを漫画でどうぞ。
『建礼門院右京大夫集』<206番詞書>より
大宰府を追われた平家と清経の入水
大宰府を追われた平家と清経の入水
漫画は、原文を基にえこぶんこが脚色しています。
◆解説目次◆ ・登場人物
・福原→大宰府→そして屋島へ
・平清経の入水 

登場人物

尊円(そんえん)
右京大夫の異父兄。父は藤原俊成。
現在、右京大夫が身を寄せている。

右京大夫(うきょうのだいぶ)
平徳子(建礼門院)に仕えていた女房。現在は退職。平資盛の恋人。

福原→大宰府→そして屋島へ

寿永二年(1183)7月、都を落ちた平家のその後の動向のお話です。

大宰府は、平家の日宋貿易の拠点。平家は大宰少弐・原田種直の宿所を、安徳天皇の御在所としました。

平家は大宰府を拠点として勢力を回復させるつもりでした。

ところが、豊後国の知行国主・藤原頼輔が、平家を追討することを決めてしまいます。このとき、平家追討を命じられたのは豊後国の豪族・緒方惟義(維義・惟栄)でした。

緒方惟義は、かつて重盛と主従関係にあったので、資盛が説得に向かいますが受け入れられず、結局平家は大宰府からも撤退せざるを得ませんでした。

緒方惟義と平資盛、大宰府落ち

大宰府を落ちた平家は、豊前国柳ヶ浦に拠点を置こうとしますが、ここも追い出され、讃岐屋島へ移りました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『平家物語』では、緒方惟義を説得する役目に資盛が抜擢された理由として、惟義が重盛の家人であったことをあげています。
ですが、都落ちあたりの資盛の動向を踏まえると、資盛はいまだ後白河院の元への帰降を諦めておらず、惟義と(神器返還も含めた)和平の折衝に臨んでいたのではないか、という説もあります。

結局この交渉は決裂し、平家は九州から去らねばならなくなるのですが、もしも資盛がいまだ帰降を望んでいたのだとすれば、主戦派である平家主流と、小松家の間には軋轢があったのではないかという想像もできます。

平資盛と緒方惟義の交渉は、えこぶんこ2で詳しく解説しています。
(別ウィンドウが開きます)


こうした中で、弟・清経の入水という悲劇が起こります。

平清経の入水

柳ヶ浦を追われたとき、早くも前途を悲観し、自ら入水した公達がいます。
資盛のすぐ下の弟、平清経(たいらのきよつね)です。

『平家物語』によれば、清経は、
「都をば源氏がためにせめおとされ、鎮西をば維義がために追ひ出さる。網にかかれる魚のごとし。いづくへゆかばのがるべきかは。ながらへはつべき身にもあらず」

【訳】
都を源氏の為に攻め落とされ、九州を維義の為に追い出され、まるで網にかかった魚のようだ。どこへ行っても逃れることはできない。生き長らえる身とは思えない。」


『平家物語』巻八 「大宰府落」
と言って、

月の夜に柳ヶ浦の海上で、船から身を投げたといいます。

『平家物語』は清経を「何事も思ひいれたる人(なんでも思いつめる性格の人)と評していますが、
後の一ノ谷、壇ノ浦における平家の公達の悲劇を思うと、清経の見通しは間違っていなかったといえますね。

このとき、清経はまだ21歳でした。(満19~20歳

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

また、前述のように、西海を漂う平家一門が一枚岩だったわけではなく、清経の小松家と宗盛たちの平家主流の間には温度差があったことが伺えます。

兄・資盛が緒方惟義との折衝に失敗した時点で、清経にはもう、平家一門とともに戦いつづけるつもりがなかった(かといって他に選択肢がない)という状況で、入水を選ばざるを得なかったのかもしれません。

また、大宰府を落ちる際に、兄・資盛の腹心として小松家の軍事を支えてきた平貞能が、平家一行から離脱し、出家しています。(『玉葉』)
兄・維盛の乳母夫である藤原忠清も、都落ちの時点で離脱しており、この時点で小松家は、彼らを支えてきた有力郎等たちを失っていたことになります。

西海の平家における小松家の立場は、とても厳しいものだったことが想像できますね。


平清経の入水、大宰府を追われた平家。平家花揃。


平清経の入水については、「えこぶんこ2」で詳しく解説しています。
(別ウィンドウが開きます)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

また、『清経』は、世阿弥作の能の演目にもなっています。
延慶本などの読み本系の『平家物語』には、清経入水の話の前に、清経と妻の別れの哀話が挟まれており、能『清経』は、この妻と清経とのエピソードがもとになっています。

平清経と妻 能「清経」 平家物語

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


小松家が立場を失っていく中で、弟の入水は、資盛には相当ショックなできごとだったと思われます。
後に、兄の維盛までもが熊野で入水してしまったとき、

資盛は右京大夫への手紙で、
「あることが あるにもあらぬ うちになほ かく憂きことを 見るぞかなしき」

生きてることが生きていることにもならないこの世で、さらにこのような辛い目にあうのは悲しいことだ
『建礼門院右京大夫集』(222歌) 『玉葉和歌集』(雑四・2344歌)

と悲痛な心情を詠んでいます。


・・・・・え?
「手紙は出さない」んじゃなかったのかって?


これは、どうしても我慢できなくなった右京大夫の方から手紙を送った、その返事です。
これが資盛からの最期の便りとなりました。

(この話も後日漫画にしますので、お楽しみに)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
平家追討の院宣を受けた源氏の軍が西へ向います。



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※『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店/『平家物語必携』學燈社/『平家物語図典』小学館/『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編日本古典文学全集、小学館/上横手雅敬氏「小松の公達について」『和歌山地方史の研究』
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