右近の橘!雪の平資盛 【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】|おひなさま豆知識

内裏に雪が降り積もった朝、たたずむ恋人・資盛。手に持っていたのは・・・?

あらすじを漫画でどうぞ。

『建礼門院右京大夫集』<248番詞書>より
漫画は、原文を基にえこぶんこが脚色しています。

◆解説目次◆ ・登場人物
・左近の桜、右近の橘! おひなさま豆知識
・雪と消えにしひとや恋ふらむ

登場人物

平資盛 たいらのすけもり
平清盛の長男〔重盛〕の次男。右京大夫の恋人。

右京大夫 うきょうのだいぶ
中宮・平徳子に仕える女房。

左近の桜、右近の橘! おひなさま豆知識


久しぶりの登場、恋人・資盛との美しいお話です。

宮中儀式の際、右近衛府の官人は、紫宸殿の前庭にある橘の木(右近の橘)の近くに控えます。
というわけで、右近衛権少将だった資盛は、橘の木にゆかりを感じて、雪のついたままの枝を折り取って佇んでいたらしい。
(さすがに紫宸殿前の「右近の橘」では恐れ多いので、折ったのは別の木でしょうけど)

もし人目を意識せず、これをやっていたのなら、資盛はなかなかのロマンチストさんですね。 もしくは、右近衛府大好きな、仕事人間かどっちかだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ところで、右近の橘と聞いて思い浮かぶのは、「おひなさま」かもしれません。
向かって右に桜の木左に橘の木を飾ります。

 ・・・左右逆じゃね?

ってなりますが、お内裏様から見たら、左が桜で右が橘だからいいんです。

 これは、実際の内裏の庭にも、紫宸殿から見て、左側に桜の木が、右側に橘の木が植えられていたことに由来します。


 宮中儀式の際には、桜の近くには左近衛府の官人が、橘の近くには右近衛府の官人が陣を敷いたので、「左近の桜」「右近の橘」と呼ばれました。
参考:「源氏物語図典」(小学館)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

さて、お雛様で桜と橘の上に飾られるのは、武官姿の老人と若者。
通称 「左大臣」「右大臣」と呼ばれていますが、実際には大臣クラスになると武官の格好はしませんので、ほんとは大臣ではありません。


そのため 「随身」とも呼ばれていますが、黒の袍(四位以上)、緋の袍(五位)を着ていることから、身分の低い随身ではなく近衛府の幹部じゃないか、という説もあるようです。
この老人と若者が近衛府の役人なら、橘と桜の側にいるのがぴったり合いますね。

ちなみに漫画では、いつも資盛だけ緋の袍を着ていますが、これはこの時点で資盛だけ官位が五位だからです。 (この時代の身分制度はロコツです・・・。)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ところで、今回の話では資盛は冬の直衣(のうし)を着ています。

直衣は私服なので、原則は直衣での参内はできませんが、宿直(とのい=夜勤)の時か、もしくは勅許を受けた者は、直衣での参内が許されたようです。

この日の資盛は、「宿直姿の萎ばめる直衣」(宿直姿のいくぶんしわになった直衣)だったとのこと。
朝の時点で既にしわしわだったということは、夜勤明けだったのかもしれませんね。

 (さらに余談ですが、史料では資盛が右近権少将に任官されたのは1178年12月で(『公卿補任』)、右京大夫が宮中にいた頃とは時系列が合わないのですが、漫画では原文に従いました。)



雪と消えにし、人や恋ふらむ


雪の資盛が好きですね、右京大夫さん。
やはり、はかなく消える雪と、資盛を重ね合わせてしまうのでしょう 。
前回は実家でしたが、今回は宮中です。


〔248番〕
たちなれし 御垣の内の たちばなも 雪と消えにし 人や恋ふらむ

●現代語訳●
あの人が立ちなれ親しんだ内裏の橘も、この降る雪のように消えたあの人を恋しがっているだろうか

この歌も、資盛が亡くなった後で、往時を偲んで詠んだ歌です。

橘の木に雪が積もっているのを見て、
わが立ちならす方の木なれば、契りなつかしくて」と言ひし折、ただ今と覚えて、悲しきこと言ふ方なき
「私が立つことに慣れている方の木だから、縁があると思って」と資盛が言ったことが、たった今のように思い出されて、悲しさは言いようがない。

忘れられませんよね・・・。



▼シェア


にほんブログ村 本ブログ 古典文学へ
にほんブログ村 




※参考文献/久保田淳氏『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編日本古典文学全集、小学館/糸賀きみ江氏『建礼門院右京大夫集全注釈』講談社/『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店
【おすすめ記事】

維盛の恋愛問題 ムードメーカー!平重衡 資盛、突然の訪れ バレたくなかった 高倉天皇の優しさ 隆信の横恋慕 資盛と右京、今生の別れ 戦地の資盛の夢を見る 重衡の生け捕り 維盛の入水 平家花揃えが面白い 人物ランキング
【記事一覧】他のお話はこちらからどうぞ!

【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】
<プロローグ>
■建礼門院右京大夫集ってどんなお話? 1

<これが平家の公達だ!編>
■スーパーアイドル!平維盛 1
■唯一の弱点?!維盛の恋愛問題 1
■平家のムードメーカー!平重衡
■真面目な琵琶名人!平経正 1
■主役登場はさりげなく!平資盛 1

<資盛との恋~宮中編~>
■恋なんてしないはずが?資盛のアプローチ
■忘れていたのはどっち?資盛の挑発
■雪のあした。資盛、突然の訪れ
■バレたくなかった!重衡・維盛の反応 1
■右近の橘!雪の資盛

<宮中エピソード編>
■内裏近き火事。頼もしい平重盛
■後白河院最愛の美女!建春門院滋子登場
■本気で褒めたのに!高倉天皇の優しさ
■五節の櫛!平宗盛のプレゼント

<隆信との恋編>
■どういうつもり!藤原隆信の横恋慕 1
■右京大夫、宮仕えやめるってよ
■わたしは何なの?隆信の結婚
■恋は追う方が負け?

<平家滅亡編>
■遠くに聞くだけ。資盛の熊野詣
■資盛との再会■枯れたる花
■寿永二年■倶利伽羅峠の惨敗!
■平家都落■資盛、最後の願い
■資盛と右京大夫、今生の別れ!
■六波羅と西八条■大宰府落ち
■戦地の資盛の夢を見る
■梅の花と資盛■一の谷の合戦
■重衡の生け捕り■維盛の入水
■屋島の資盛へ手紙を
■資盛からの最後の便り!
■壇ノ浦の戦い! ■壇ノ浦の戦後処理

<追憶の旅編>
■北山の思い出
■大原へ。建礼門院を訪ねて 1
■右京大夫、旅に出る
■比叡坂本、雪の朝の思い出
■波の底の資盛に■星合の空

<再出仕編>
■後鳥羽天皇に仕える
■宮中で資盛の名を聞く
■藤原隆房、藤原公経との贈答
■藤原俊成九十の賀に

<エピローグ>
■読み継がれる右京大夫集

【コラム】
■平家物語登場人物ランキング!
■平家物語名言集!
■平家美男子カタログ!平家花揃が面白い
■平家物語おすすめ本7選!
■平家が題材の江戸川柳が面白い|
■平家物語あらすじと見所