恋は、追う方が負け?!隆信との恋の終わり【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】

隆信との関係をズルズルと続けてしまう右京大夫。そんなある日、ついに目が覚める?!
あらすじを漫画でどうぞ。
『建礼門院右京大夫集』<149~153番詞書>より

漫画は、原文を基にえこぶんこが脚色しています。

◆解説目次◆ ・登場人物
・追う方はどっち?ほととぎすバトル!(右京大夫v.s.藤原隆信)
・冷めてしまった隆信 

登場人物

藤原隆信(ふじわらのたかのぶ)
歌人。似絵の名手。

右京大夫(うきょうのだいぶ)
中宮・徳子に仕える女房。現在は退職。

追う方はどっち?ほととぎすバトル!(右京大夫vs.藤原隆信)

このほととぎすの歌、ちょっとおもしろい応酬なので、詳しく見ていきましょう。

■右京大夫が詠んだ和歌
〔149番〕
もろともに こと語らひし あけぼのに 変らざりつる ほととぎすかな

●現代語訳●
あなたと一緒に語り合った、あの明け方に聞いたのと、少しも変わらないほととぎすの声ですね。
(あなたの気持ちは、変わってしまいましたけどね)

ほととぎすの声にかこつけて、隆信の気持ちが冷めたことへの嫌味を言ったわけですね。
それに対して・・・

■隆信の返歌がこちら
〔150番〕
思ひ出でて 寝覚めし床の あはれをも 行きて告げける ほととぎすかな

●現代語訳●
あなたのことを思い出して、寝ざめた床でしみじみとしていた私の気持ちを、ほととぎすがあなたの所へ飛んでいって、告げたのですよ。

・・・さすがです、隆信さん。

右京大夫の嫌味を逆手にとって、自分もちょうど想っていたという恋歌にすり替えましたね。さすが歴戦のプレイボーイです。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

この歌の面白いのは、実は隆信も、私家集『隆信朝臣集』に同じ歌を載せていることです。

『隆信朝臣集』の詞書には、「時々物申しわたりし女のもとより『ねざめに郭公(ほととぎす)をききて、かくなんおぼえつるとて、」とあります。

同じ歌に関して、
●隆信は、「右京大夫から歌を贈ってきた」
●右京大夫は、「隆信から手紙があったついでに贈った」
と書いているのです。

つまり、どっちも、
「相手の方から先に言ってきたんだよ!」と言っているわけです。

どっちが正しいのかはわかりませんが、お互い、自分が追いかけてる側だとは認めたくないってことでしょうね。




冷めてしまった隆信

それにしても、隆信さん。
あんだけ熱心に右京大夫を口説いておいて、この掌返しは、ひどくないかい・・・?

おそらく隆信は、宮中で並居る殿上人たちと機知を競い合っていた頃の、才気溢れる右京大夫に興味があったんでしょうね。

そんな才媛・右京大夫が、まだ十代の平家の若造・資盛のものになったと聞いて、ちょっと手を出してみたくなった、というところだったのかもしれません。

今となっては、宮中を退いた右京大夫にかつての輝きはなく、それどころか、寂しさから、隆信に縋るような気配すら見えます。

こうなったら・・・まぁ、

冷めますよね。

ね。


※先述のように、詞書に名前は出てきませんので、漫画後半の153歌は、資盛への歌だとする説もあります。
(『式子内親王集・建礼門院右京大夫集・俊成卿女集・艶詞』和歌文学大系、明治書院)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

隆信との恋編はここで終了。
コラムを挟んで、お話は「平家滅亡編」へ続いていきます。



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※参考文献/久保田淳氏『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編日本古典文学全集、小学館/糸賀きみ江氏『建礼門院右京大夫集全注釈』(講談社)/『平家物語』新日本古典文学大系、岩波書店

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