波の底の資盛に【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】

旅に出た右京大夫でしたが、結局どこにいても悲しみは尽きないまま、都に戻ることになりました。帰り道の琵琶湖の湖畔で…
あらすじを漫画でどうぞ。
『建礼門院右京大夫集』<259歌詞書>より
漫画は、原文を基にえこぶんこが脚色しています。

◆解説目次◆ ・登場人物
・荒き波にも たちまじらまし
・聡明で現実的な女性・右京大夫 

登場人物

右京大夫(うきょうのだいぶ)
平徳子(建礼門院)に仕えていた女房。

平資盛(たいらのすけもり)
清盛の長男[重盛]の次男。右京大夫の恋人。

荒き波にも たちまじらまし

これまでも、雪を見たり、橘を見たりする度に、恋人・資盛の在りし日のことを思い出していた右京大夫でしたが、さすがに琵琶湖の湖面を見たときには、壇ノ浦でのことを考えずにはいられなったようです。

259歌
恋ひしのぶ 人に近江の 海ならば 荒き波にも たちまじらまし

●現代語訳●

恋しいあの人に、この近江の湖で逢うことができるのならば、私は、この荒い波の中にだって入っていくのに。
※あふみ…「近江」と「逢ふ」の掛詞。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

この歌を見たときに連想されるのは、討たれた夫(平通盛)の後を追って入水した小宰相のことです。

平家屈指のラブラブ夫婦・平通盛小宰相について、「平家物語」(覚一本)に沿って簡単に紹介します。

小宰相は、上西門院(後白河の姉)に仕える女房で、宮中第一と言われるほどの美女でした。そんな小宰相に一目惚れしたのが、平通盛。(清盛の弟[教盛]の長男)

中々心を開かない小宰相に通盛はラブレターを送りつづけ、三年越しの恋はついに実ります。通盛は、美しい小宰相をとても大事にしたようで、西国行きにも同行させしました。

ところが通盛は、一ノ谷の戦いで、討たれてしまいます。
通盛は、湊川で敵七騎に囲まれ、もう後がないとわかったときでさえ、側に仕えていた侍に「私が討たれても、おまえは命を捨てるな、なんとしても生き残って北の方(小宰相)のもとに行け」と言い、最後の最後まで、小宰相のことを気遣っていたといいます。

最愛の夫の最期を聞いた小宰相は、人目をさけて、夜中に一人、海に飛び込みました。
(平家物語巻九「小宰相身投」)

この壮絶な小宰相の最期を伝え聞いたとき、右京大夫は、「かへすがえす、ためしなかりける契りの深さもいはむかたなし」と語っています。(165歌詞書)

もしかすると、悲劇とはいえ、愛を貫いた小宰相が羨ましかったのかもしれません。

右京大夫は、資盛に愛されていたとはいえ、正妻でもなければ、小宰相のように戦場を共にしたわけでもない。
共に波の底に入りたくても、それすら叶う立場ではなかったのです。

この259歌からは、そんな右京大夫の行き場のない想いが感じられるのです。







聡明で現実的な女性・右京大夫

右京大夫は、小宰相のように愛する人の後を追うことも、また俗世を棄てて出家することもしていません。
彼女自身、そのことに引け目を感じているような記述が所々に見えます。

一方で、彼女は、神仏にも冷静な目を向けています。

あれだけご加護を願ってきたにも関わらず、資盛を助けてはくれなかったことに対して、
「神も仏も恨めしくさえなりて」(232歌詞書)と言い、
資盛のいない今となっては何も願うこともないと、
「なにごとを祈りかすべき」(253歌)とも言っています。

神仏がガチで信じられていた時代に、ここまで言ってのけた人は、なかなかいないんじゃないでしょうか。

また、悲しみに打ちひしがれているときでさえ、そんな自分を客観的に眺めるもうひとりの自分がいて、「何の心ありて」と言ってしまう。(なに悲劇のヒロインぶってんだ?みたいなツッコミを自分に入れてしまう)(229歌詞書)

彼女は非常に聡明であったがゆえに、感情に走ることもできず、かといって資盛の為に表立って何かができる立場でもない自分自身に苦しんだような気がします。

彼女は、そんなやり場のない思いの全てを筆に託して、この『建礼門院右京大夫集』に昇華させたのかもしれません。

平家系図



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※参考文献「平家物語」新日本古典文学大系(岩波書店)/「平家物語必携」(學燈社)/「平家物語図典」(小学館)/「平家の群像」(岩波新書)高橋昌明氏/平家後抄(朝日新聞社)角田文衛氏/「建礼門院右京大夫集・とはずがたり」新編日本古典文学全集(小学館)久保田淳氏

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【記事一覧】他のお話はこちらからどうぞ!

【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】
<プロローグ>
■建礼門院右京大夫集ってどんなお話? 1

<これが平家の公達だ!編>
■スーパーアイドル!平維盛 1
■唯一の弱点?!維盛の恋愛問題 1
■平家のムードメーカー!平重衡
■真面目な琵琶名人!平経正 1
■主役登場はさりげなく!平資盛 1

<資盛との恋~宮中編~>
■恋なんてしないはずが?資盛のアプローチ
■忘れていたのはどっち?資盛の挑発
■雪のあした。資盛、突然の訪れ
■バレたくなかった!重衡・維盛の反応 1
■右近の橘!雪の資盛in宮中

<宮中エピソード編>
■内裏近き火事。頼もしい平重盛
■後白河院最愛の美女!建春門院滋子登場
■本気で褒めたのに!高倉天皇の優しさ
■五節の櫛!平宗盛のプレゼント

<隆信との恋編>
■どういうつもり!藤原隆信の横恋慕 1
■右京大夫、宮仕えやめるってよ
■わたしは何なの?隆信の結婚
■恋は追う方が負け?隆信の失言

<平家滅亡編>
■遠くに聞くだけ。資盛の熊野詣
■資盛との再会■枯れたる花
■寿永二年■倶利伽羅峠の惨敗!
■平家都落■資盛、最後の願い
■資盛と右京大夫、今生の別れ!
■六波羅と西八条■大宰府落ち
■風のおびただしく吹く所
■梅の花と資盛■一の谷の合戦
■重衡の生け捕り■維盛の入水
■屋島の資盛へ手紙を
■資盛からの最後の便り!
■壇ノ浦の戦い! ■壇ノ浦の戦後処理

<追憶の旅編>
■北山の思い出
■大原へ。建礼門院を訪ねて 1
■右京大夫、旅に出る
■比叡坂本、雪の朝の思い出
■波の底の資盛に■星合の空

<再出仕編>
■後鳥羽天皇に仕える
■宮中で資盛の名を聞く
■藤原隆房、藤原公経との贈答
■藤原俊成九十の賀に

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