主役登場はさりげなく!平資盛-2【建礼門院右京大夫集あらすじマンガ】|平家都落

前回のつづきです。ちょっと拗ねたような右京大夫の和歌に対して、平家の男性陣の反応は?
『建礼門院右京大夫集』<9~11番詞書>より 
漫画は、原文を基にえこぶんこが脚色しています。

◆解説目次◆ ・藤原基通と後白河法皇-歴史を動かす二人の関係
・小松家と後白河法皇-見捨てられた資盛

藤原基通と後白河法皇-歴史を動かした二人の関係


漫画は恋の始まりっぽい雰囲気ですが、
解説は前回の記事に引き続き、藤原基通さんについてです。

倶利伽羅峠の戦いに敗れ、木曽義仲が今にも都に攻めてくるという事態になった寿永二年(1183年)7月25日、平家は遂に都落ちを決行しました。

 都落ちといっても、当初の計画では、三種の神器安徳天皇後白河法皇摂政・藤原基通を連れて行く予定でしたので、これが成功していれば、平家は充分に官軍を名乗ることができました。

しかし実際には、後白河法皇には逃げられ、摂政・藤原基通にも逃げられてしまいます。

  後白河法皇は、都落ちの直前7月24日夜に、密かに京都を脱出し、比叡山に身を寄せます。摂政・藤原基通は、一旦は平家と共に西国に下向するフリをするのですが、途中で引き返してしまいます。

結果、平家の正統性を主張しうるものは、幼い安徳天皇と三種の神器しかなくなってしまいました。

 さらに京では、神器なしで後鳥羽天皇が即位したことによって、平家の正当性は完全に失われてしまいました

「源平の戦い」と言われますが、この時点まで平家は、反乱軍を討伐する官軍でした。
 しかしこの時、後白河法皇がハッキリと平家と決別し、後鳥羽天皇が即位するに至って、平家が賊軍として追われる身になることは確実になってしまったのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「法皇の京都脱出」という平家にとって最悪の事態を招いてしまった原因は、平家の中で内密に話し合われていた都落ちの計画が、直前にバレてしまったからです。

実は、この計画を後白河院に密告をしたのが、藤原基通だったのです。(『玉葉』)
(藤原基通は、摂政といってもまだ24歳で、この頃後白河法皇からとても気に入られていたといいます。)

 土壇場で保身に走った基通の行動は薄情にも思えますが、摂関家嫡流の基通に、西国で平家と運命をともにするほどの義理があるかと言われれば、やむを得ない選択だったのかなという気はしますね。







小松家と後白河法皇-見捨てられた資盛

ところで、 小松家(特に資盛)も後白河法皇とは密接な関係にありました。そのため、都落ちのとき、「小松家の公達だけは、院の元に帰降するのではないか」という噂もあったようです。 (『吉記』)

結果的には小松家の公達も一族に従い、西国行きに同行することになるのですが、平家主流と足並みが揃っていたとは言えない状況でした。

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 資盛の場合

都落ちの直前まで(7月21日)、資盛は後白河院の宣旨で宇治方面に出陣していました。

院の近習として仕えていた資盛にとって、後白河院の脱出は信じられない出来事だったことでしょう。

資盛は法住寺殿に入り、後白河院との接触を試みます。ですが、既に比叡山に脱出していた院と連絡を取ることは叶わず、結局資盛は、西に向かう平家本隊に合流することになります。

 突如見捨てられたに等しい資盛の心中は、どういうものだったのでしょうか。

資盛は、4ヶ月後の寿永二年11月にも、西海から後白河院に手紙を出しますが、これも相手にされませんでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

  維盛の場合

一族の皆が妻子を伴って西国に下っていく中、維盛は妻子を都において行きます。

 前述のように維盛の妻は、鹿ケ谷の陰謀で平家を裏切った藤原成親の娘なので、連れて行っても肩身の狭い思いをさせることになると思ったからでしょう。


 また、倶利伽羅峠の戦いの敗北で、源氏の勢いを目の当たりにしていた維盛は、都落ち後の平家に希望が持てず、妻子を道連れにしたくなかったのかもしれません。

『平家物語』には、維盛が嫡子・六代を連れてこないことで、宗盛に真意を疑われる描写があります。

数々の非情な亀裂を生んだ平家の都落ち。ほんの数年前には、右京大夫集の今回の話にあるように、維盛も資盛も藤原基通も、一緒に仲良く花見をしていたのだと思うと、せつない気持ちになりますね。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ツッコミ解説が、全然恋のお話ではありませんでしたね。
 (ーー;)
 次回からは、いよいよ、資盛と右京大夫の恋が進展します。お楽しみに!





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※参考文献   /久保田淳氏『建礼門院右京大夫集・とはずがたり』新編日本古典文学全集(小学館) /糸賀きみ江氏『建礼門院右京大夫集全注釈』講談社学術文庫 /梶原正昭氏・山下宏明氏『平家物語』新日本古典文学大系(岩波書店)


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